2010.05.01

「天使にも悪魔にもなる花“ポピー”」

 この時期、とても明るくきれいな花を咲かせるポピー(ケシ科)。春らしい鮮やかな色、風にゆらゆらとそよぐ姿は爽やかな春のイメージにぴったりです。春花壇にはぜひとも加えたいポピーですが、同じケシ属の中には危険な一面を持った種もいます。

 ケシ科ケシ属(Papaver属)のケシからはアヘンという物質が採取できます。アヘンにはモルヒネ(またはテバイン)という麻薬成分が含まれ、なんとヘロインという麻薬の原料になってしまうのです。モルヒネ自体は紀元前から医療目的の鎮痛剤などに用いられ、私たちにとって今もなお有用な成分です。しかし麻薬の原料となり得るため、その利用と、唯一の原料であるケシの栽培は厳しく制限されています。特に日本は海外諸国と比べて不正ケシの規制が厳しく、いかなる目的であっても栽培には厳しい条件に基づいた許認可が必要で、日本国内での栽培は公共研究機関や大学薬学部の薬用植物園等に限られます。
 不正ケシとして、以下の3種が一般的な栽培を禁止されています。
ソムニフェルム種 P.somuniferm ex.ケシ 含有成分:モルヒネ
セティゲルム種 P.setigerum ex.アツミゲシ 含有成分:モルヒネ
ブラクティアタム種 P.bracteatum ex.ハカマオニゲシ 含有成分:テバイン

 しかし実際には不正ケシの摘発が後を絶ちません。海外諸国では鑑賞目的の栽培は規制されていない場合が多く、海外旅行先やインターネット販売などで知らずに不正ケシの種子を入手してしまったり、合法である種の種子のなかに誤って違法種の種子が混入してしまうケースがあるようです。

安全なケシ属 ナガミヒナゲシ
安全なケシ属 ナガミヒナゲシ

 また、ケシ類は強い繁殖力をもつ種が多いのも特徴です。近頃、オレンジというかサーモンピンクというか、色鮮やかな花を持つ雑草をあちこちで見かけませんか?ヨーロッパ原産のナガミヒナゲシという花で、何かに混入してしまった種子が、その強い繁殖力で国内に広がってしまった帰化植物です。ナガミヒナゲシ自体は安全ですが、コンクリートの隙間からも群生する様はケシ属の旺盛な繁殖力を示しています。

ナガミヒナゲシの種子
ナガミヒナゲシの果実内には非常に小さい種子が大量に含まれている。

 “ケシ粒ほどの”の比喩表現が存在する程小さいケシの種子が国内へ流入することを阻止するのは不可能に等しく、一旦国内に侵入してしまうと、上述した繁殖力の強さに加え、素人目には安全なケシ属と不正ケシとの区別が非常につきづらいことから、不正ケシの一掃は容易ではありません。ケシ属が花を咲かせるこの時期になると、関係機関は不正ケシ撲滅運動を展開し、注意を喚起しています。

アイスランドポピー花壇
アイスランドポピー花壇

 私たちを破滅へ導く悪魔のような麻薬の原材料である一方で、食用としての種子や含有成分を薬用として古くから私たちに貢献してきた一面も持つケシ。同じケシ属でも園芸用に流通しているヒナゲシ・アイスランドポピー・オニゲシなどは麻薬成分を含んでおらず、危険はありません。私たちは、ケシの効用に感謝しつつ、安全なケシ属の美しさを堪能することにしましょう。