2010.06.01

「雨の似合う花“アジサイ”」

 そろそろ梅雨入りの時期。暗い雨空を見上げると沈んだ気分になりがちですが、降り続く雨のお陰で、アジサイがむしろその美しさを増す季節でもあります。アジサイの豆知識を仕入れて、雨の日こそアジサイの素晴らしさを味わいに出かけましょう。

●「酸性土で青、アルカリ性土で赤」はウソ?

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青が美しいアジサイ

 「七変化」の別名があるように、アジサイは時が経つにつれ花の色合いが微妙に変化することでも知られています。同じ種でも「酸性土壌で青色、アルカリ性土壌で赤色を発色する」という話は有名ですが、実際には土壌のpHは花色を決定する数ある要素の内の一つに過ぎない事が分かっています。
 アジサイの花色は「土壌中から吸収されたアルミニウムイオンが、花に含まれるアントシアニン色素と結合した場合青色になる」という構造を基本とし、土壌のpHや品種特性、土壌中のリン酸含量、水分量、土壌のアルミニウム含量等が影響します。
・土壌pH(土壌酸度)
 アルミニウムは酸性土壌では水に溶けやすく、アルカリ性土壌では溶けにくくなります。日本の土壌は基本的に酸性のため青色が出やすく、逆にヨーロッパの土壌はアルカリ性が多いので赤色が出やすくなります。
・品種特性
 それぞれの品種が元々持つ助色素(自らは色を持たないがアントシアニンの色の変化に寄与する分子)により、土壌pHで色が変化するものとしないものがあります。ちなみに白花種はアントシアニン色素がないので、花色は変わりません。
・リン酸含有量
 リン酸が多い土は、リン酸がアルミニウムを吸着し不溶性にしてしまいます。アルミニウムイオンの吸収が阻害され、結果青色は出にくくなります。
・水分
 土壌の水分が少ない場合もアルミニウムが溶け出しにくくなるため、青色が出にくくなります。
・土壌のアルミニウム含有量
 アジサイはアルミニウムを持たないので、そもそも土壌にアルミニウムイオンがなければ青色は出にくくなります。

●あのアジサイは日本発祥じゃない?:

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ガクアジサイ

 アジサイといえば、花が手まり状に集まったインパクトある姿が特徴的ですが、その多くはセイヨウアジサイと呼ばれる園芸品種です。日本を原産地とするアジサイは元々手まり状でないことをご存知でしたか?日本発祥であるアジサイの原種は、その地域特性に応じて大きく以下の3つの種に変化して現存していると言われています。
 ガク(額)アジサイ(ハマアジサイ)・・・伊豆・房総半島などの海岸地域に自生
 エゾアジサイ・・・北陸~東北・北海道などの積雪地域に自生
 ヤマアジサイ・・・東北を除いた本州・四国・九州の内陸地域に自生
 これら3種の特徴は、小さくて目立たないが結実する本当の花:両性花を、立派な花びらを持っているように見えるが雌しべが退化しており結実しない花:装飾花(花びらと思われている部分は萼<がく>)が額縁状に囲っている形状であることです。
 これら額縁型アジサイから、両性花がなくなり全て装飾花となった手まり型アジサイ(別名:ホルテンシア)が変種として生まれ、それを元にヨーロッパ等で園芸的に選抜され様々に品種改良されたものがセイヨウアジサイ(別名:ハイドランジア)として日本に入ってきたという訳です。

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鎌倉・長谷寺のアジサイ

 手まり型のアジサイも魅力的ですが、今年は日本を故郷に持つ元来のアジサイの姿・ガクアジサイに注目してみてはいかがでしょうか。サクラの時の様な花見ではなく、雨の降る音を聴きながら、静かにアジサイを眺めるのもきっと素敵な時間です。