- 2011.09.01
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「ヒマワリと放射能」
原発の放射能漏れ事故が問題となっている中で、ヒマワリが注目を浴びているのを御存知ですか?インターネットで検索すると、以下の様な記述を多く見かけます。
<植物には根から土壌内の放射性物質を吸収するものもあるそうで、中でもヒマワリの吸収効率はよく、放射性物質の除去に30年以上かかるといわれる場所で、わずか20日で95%以上を除去したという>
この説を元に、被災地にヒマワリを植えようという動きもあるようですが・・・。果たして、この夢のような話は本当なのでしょうか?結論から言えば、上記の文章には大きな間違いがあります。
調べてみると、上記< >の記述は、
『アメリカの研究機関Phytotech,Inc.が開発したヒマワリの遺伝子導入株が、24時間のうちに有害汚染物質(放射性物質ではない)の95%を除去する』という話と『チェルノブイリ近くの池の水で栽培されたヒマワリ(いわゆる水耕栽培の状態)が放射性物質を吸収し、12日間で根のセシウム濃度が水中の8000倍に、花のストロンチウム濃度が2000倍になった』という研究報告が混ざり合ってしまったもののようです。一連の記述は、植物のファイトレメディエーションに関する記述の1つです。 ギリシャ語で植物を意味するphytoとラテン語で治療・修復を意味するremediationからできた用語で、「植物などを利用し、土壌や水中・大気中の汚染物質を吸収・分解させ、環境汚染を除去・抑制・無害化する技術」を指します。道路建設現場等の土壌汚染対策として、欧米を中心に研究が進められている分野です。
今回問題となっている放射性物質の1つセシウム(Cs)は、化学的な性質が植物の養分であるカリウムと似ているため、カリウムと一緒にCsを取り込むという現象が起こります。ヒマワリは、体が大きく養分を多く取り込む植物である点、栄養源が少ない土地を好み栄養源を吸収する能力が高い点からCs吸収に向いているであろう植物として、ヒマワリを用いた放射性物質吸収に関する研究は実際に行われています。しかし、
・ヒマワリが放射性物質を濃縮するとする上記の実験は、水耕栽培での結果。土に植えた場合に吸収できるのは土壌中の水分に溶け出した少量の放射性Csのみで、土壌と結合した状態の放射性Cs(汚染土壌内ではほとんどがこの状態で存在している)の吸収は困難
・今回の事故で主に問題とされている放射能汚染は、土壌の表面深さ数cmにとどまるCsによる汚染で、ヒマワリの根が汚染された表土部分にうまく張るとは限らない
などから、除去効果は期待できません。
また、仮に吸収できたとして、生物が放射性物質を分解することはできません。ヒマワリが放射性物質を吸収し蓄積する能力があることは事実ですが、根や花に蓄積されるだけであり、放射能を蓄積したヒマワリは放射性廃棄物として適切に処理される必要性が出てきます。
現時点で放射能の土壌汚染の現実的な解決策とされる“表面剥離で汚染土壌を取り除く”方法と比べて安全性やコストの面では優れていますが、土壌からの吸収効率や生長するのに要する時間、吸収後の処理方法など問題は山積みで、実際にはヒマワリが汚染土壌から放射性物質を取り除くのに有効な手段とは到底言いがたいというのが現状です。
このことを読み間違えると、今回出回ったデマのように<30年かかる放射能除去がわずか20日でできてしまう>という間違った認識を抱いてしまうことになります。ただし、20日で95%除去、という数字や表現は誤りであるものの、ヒマワリにファイトレメディエーション効果が認められるのもまた事実です。今回の件によりファイトレメディエーションという研究に注目が集まったことで、この分野の研究が発展するのに良いきっかけとなったかもしれません。夢のような話が実現する日が来るとよいですね。
来年、私たちはどのような思いでヒマワリを見ることになるのでしょうか。放射能問題が1日も早く解決されることを願ってやみません。