- 2012.09.01
-
水生植物って?
まだまだ汗ばむ気候の9月。そんな暑さの中、つかの間の涼しさを演出してくれる植物が水辺に揺れる水生植物たちです。今回のコラムでは、水辺に生きる水生植物に注目してみましょう。
水生植物って?
水生植物とは文字通り水辺や湿原に生える湿地性植物の事で、発芽が水底で行われ、植物体が完全に水中にあるか、または抽水状態で長期にわたって生育するものを言います。水生植物とは言っても、完全に水中だけで生活するものはそれほど多くありません。植物全体が水に沈んでいる沈水植物、葉を水に浮かべる浮葉植物、水底の土に根を張らないで水面に浮いている浮遊植物、葉や茎を水上に出す抽水植物などがあり、主に淡水性のものを指します。被子植物、シダ植物に含まれるものが多く、時にコケ植物や、形態的な類似性から車軸藻類を含んでそう呼ぶ場合もあります。庭園の池や泉水での栽培や、熱帯魚飼育などの関係で、アクアリウムなど、観賞用に広く使われています。
ここで水生植物の4つの分類について説明しましょう。
◯沈水性植物◯
植物体が完全に水中にある沈水性の植物はそれほど多くありません。分類群としては、単子葉植物のイバラモ科、ヒルムシロ科など、双子葉植物のマツモ科やアリノトウグサ科など、それほど多くない数の科に集中します。沈水性植物の場合、根が水底にあると水面が遠くなってしまいます。長い茎に葉を付ける形の水生植物の場合、長く伸びて水面近くに固まりをなして生育する事がよく見られます。根を失い、水中を漂う形になるものもあります。花を水中で咲かせるものはごく少なく、イバラモ科、カワゴケソウ科やマツモなどがあるのみです。ほとんどのものは茎を伸ばして水面か水上に花を付けます。花粉が水面に浮かんで散布されるものもあります。また、茎を伸ばして水面に花を咲かせるものでは、果実になると茎が縮み、種子を水中に散布するような適応をしたものもあります。カワゴケソウ科の一部の種は茎や根の区別を失い、コケ類のような葉状体になっています。クロモ/フサモ/バイカモ/セキショウモ/ミズオオバコ/スブタ類/エビモ/イバラモ/トリゲモ類/フサジュンサイ(カボンバ)/オオカナダモなど。
◯浮葉性植物◯
根が水底についていて、葉を水面に浮かべる植物で、身近なところではスイレンが挙げられます。根を水底に這わせ、長い葉柄を伸ばして葉を水面に出します。またはジュンサイやヒルムシロのように、水底から茎を伸ばし、水面近くで葉を出して水面に浮かべる形のものもあります。花は水面に浮かべるものが多いのが特徴です。スイレン/ヒツジグサ/ジュンサイ/オニバス/ヒシ/ガガブタ/ヒルムシロ/トチカガミ/オグラコウホネなど。
◯浮遊性植物◯
水面に植物体が浮かんでいて、根が水底についていない植物もあります。ただしその種類は限られており、ウキクサ科のもの以外には、ホテイアオイやボタンウキクサ、水生シダ類のアカウキクサ、サンショウモ、コケ植物のイチョウウキゴケなどが挙げられます。これらの植物は葉に浮き袋があるなど、浮葉性植物以上に水面に出やすい仕組みを持ち、根は水中に下がって、葉とのバランスを取っています。植物体が固定されていない事から、水に流される危険がありますが、それを補うかのように旺盛な繁殖力を持つものが多いようです。ウキクサ科植物/オオアカウキクサ/ホテイアオイ/タヌキモ/ムジナモ/ウキゴケ/ヒンジモなど。
◯抽水性植物◯
根が水中にあり、茎や葉を伸ばして水面上に出る植物を抽水性と言います。コウホネ類、スイレン類では浮葉性のものと抽水性のものがあり、はじめは浮葉性で、よく育つと抽水性になるものもあります。その他ハス(昔はスイレン科とされたが、系統が全く異なるとされ、現在はハス科とする事が多い。)などがあります。カヤツリグサ科やイネ科には抽水性で背の高くなるものがあり、川や池などの水辺を広く覆う事が多いです。ハス/マコモ/ヨシ/クログワイ/フトイ/コウホネ/カンガレイ/オモダカ/ウリカワ/ミクリ類/ショウブ/ガマ類/カキツバタ/コナギ/ミツガシワなど。
また、水生植物に近い分類に属する、
◯湿地性植物◯
根元が水に浸るところに生育する植物です。水位が上がる時以外はほとんど水に浸からない植物で、根が水面下に入る為、根への通気の仕組みや呼吸根を持つものがあります。それ以外は陸上の植物とさほど変わりません。ここまでに挙げた形の水生植物に比べると、多くの分類群に例があります。ヌマスギやハンノキなど、樹木にもこれに当たるものがあります。ミズバショウ/エゾノリュウキンカ/クリンソウ/ワタスゲ/ヤナギトラノオ/チシマアザミ/エゾミソハギ/モウセンゴケ/ミズトクサなど。
“観賞用にも使われる水生植物”
水生植物を身近に感じられるものとして、園芸やアクアリウム用として観賞用に栽培されるものもあります。園芸用や野外アクアリウムにはハスやスイレンなどの浮葉性のもの、サギソウ・アヤメ・カキツバタ・パピルスなどの湿地性・抽水性のものが使われます。室内アクアリウム用には沈水性のもの以外に、本来は浮漂性や抽水性で生活するものを水中化したものが多く使われます。主なものではエキノドルスやアヌビアス、ミクロソリウムや水生シダ、ウィローモスなどが使われます。また、アクアリウムで使われる水生植物には、観賞用だけでなく熱帯魚たちが産卵した卵の隠れ家になったり、水中に豊富な酸素を供給し、有害な物質を養分として吸収するなど、水槽の中に調和を造り出すのに大切な役割も担っているのです。
いかがでしたか?もし水生植物を見る機会があった時には、その植物がどの分類なのか考えてみても楽しいかもしれません。これからの季節、秋が近づいて暑い夏の間ぐんぐんと成長した水生植物が最も見応えのある季節です。この機会にぜひ植物園に足を運んではいかがでしょうか。