- 2010.09.01
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「妖しく燃える赤い花“ヒガンバナ”」
9月に咲く代表的な花の一つ、ヒガンバナ。その赤く繊細な花は、何ともいえない妖艶な魅力を醸し出しています。今月はそんなヒガンバナの様々な特徴を御紹介します。
本当にお彼岸の頃に咲く?
ヒガンバナは、お彼岸の頃に花を咲かせるのが名前の由来とされていますが、南北に長い日本国内、本当にお彼岸の時期に咲いているのでしょうか。
結論からいえば、本当です。 気象庁の1971~2000年の記録によると、ヒガンバナの平均開花日は、最早日と最遅日でみると1ヶ月程度の開きはあるものの、基本的に9月10~20日頃のまさにお彼岸時期に集中しています。サクラのように、開花日が徐々に北上する開花前線はありません。
しかしここで一つの疑問がわいてきます。ソメイヨシノの開花は九州地方の3月中旬に始まり東北地方の4月下旬まで1月以上かかるのに、ヒガンバナの開花時期がお彼岸頃に集中するのはなぜでしょうか。
それは開花条件の違いと考えられます。サクラの開花には、冬の低温期を経た後に積算温度(毎日の最高気温の合計)が一定値に達することが必要とされています。つまり冬を越えた後の気温が高いほど早く開花するということになり、暖かい地域で開花が早く寒い地域で開花が遅れます。一方、ヒガンバナが全国どこでもお彼岸の頃開花すること・サクラの開花や紅葉の時期が地球温暖化やヒートアイランド現象により昔と比べてずれているのに対してヒガンバナの開花時期は昔も今も開花時期がずれていないことから、ヒガンバナは「絶対的な温度に反応するのではなく、温度の変化を感じて花を咲かせている」という説が有力です。葉より先に花が咲く?
多くの植物は、開花後に種子や実を作る養分が必要なため、葉が先に成長し光合成で養分を蓄えてから花が咲きます。ソメイヨシノのように、養分を幹や根に蓄えられる樹木類には、花を咲かせたあとに葉が出るものもたくさんあります。
しかし、草花は種子から芽を出しいきなり花を咲かせてしまったら、次の種子を作る養分を蓄えることができません。そのため、ほとんどの草花が葉のあとに開花するのですが、先に開花する草花も存在します。その代表種がヒガンバナです。ヒガンバナは球根を有しており、球根の中に養分を蓄えられるため、つぼみがいきなり芽吹くことが可能となりました。5月中旬に形成されたつぼみがお彼岸頃に発芽し、花を咲かせます。花が枯れたあと、晩秋から冬にかけて葉を茂らせ光合成を行い、春、他の雑草が繁茂する頃に葉は枯れ姿を消します。
競争相手のいない時期に有利に光合成を行い養分を蓄えるヒガンバナの生活様態は、厳しい自然界を生き抜く知恵といえます。人々から疎まれる花?
ヒガンバナは墓地などで多く見られることから、ハカバナ・シニンバナ・ユウレイバナなど、縁起の悪い別名を多く持っています。しかし、だからといって嫌われ物でもなかったようです。
日本のヒガンバナは、3セットの染色体を持つ三倍体の植物で、正常に生殖できないため花が咲いても種子ができません。株分けで増えるので、墓地へは人の手によって植えられたと考えられます。
ヒガンバナは鱗茎にリコリンというアルカロイドの有毒成分を含んでいます。その有毒成分により、虫除けとして、また埋葬後に動物によって荒らされることを防ぐ目的で、あえて植えられたと考えられます。
この有毒成分リコリンは水溶性のため、水にしばらくつけ置いて無毒化した鱗茎は、戦時中の非常食として食用とされたという歴史もあります。また、鱗茎は生薬の原料でもありました。ヒガンバナは、疎まれたというよりもむしろ重宝されてきた花といえます。多くの名前を持つ花
ヒガンバナは別名を数多く持っていることでも知られています。仏典に出てくる天上の花に由来するマンジュシャゲ、炎のような花姿からカジバナ、有毒なことからシタマガリ・シビレバナ。他にもステゴバナ、キツネノカンザシなどの呼び名があり、ヒガンバナを表す別名は1000を超えるとも言われています。
不吉なイメージなものも多いですが、古くから私たちと深く関わってきた花ということは間違いないようです。