- 2015.07.01
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桃のおいしい季節になりました。
桃のおいしい季節になりました。
桃の産地といえば山梨・福島・長野がよく知られていますが、ここ綱島もかつて「日月桃(じつげつとう)」という桃の大産地だったそうで、東横線綱島駅近くにある神明社は「桃雲台(とううんだい)」とも呼ばれ、綱島が名産地であった当時、神明社から見降ろす一面の桃畑が、まるで桃色の雲の上にいるようだったことから名づけられたとの事です。さて、桃の季節を迎えると毎年思いおこすお話しがあります。今回は、そのお話しについてです。
黄泉の国
「黄泉(よみ)の国」のお話しを御存じでしょうか。日本神話に登場する、伊邪那岐(イザナギ)と伊邪那美(イザナミ)にまつわるお話しで、ご存知の方も多くいらっしゃるでしょう。“イザナギとイザナミはさまざまな神々を生み出したが、イザナミが最後に生んだのは火の神であった。イザナミは火傷を負い、その火傷が原因で命を落としてしまう。イザナギは愛するイザナミを迎えに、黄泉の国へと赴く。イザナミと再会し、イザナギは「もう一度私のもとに戻ってはくれまいか」と懇願するも、「すでに黄泉の国の食べ物を口にしてしまった以上、あなたのもとに戻ることはできない…」と言う。しかし、愛しい夫が落胆する様を見たイザナミは、「何とか戻れないものかどうか、黄泉の国の神に尋ねてみます。ただし、その間は私の姿をけっして見ようとしてはいけません…」
イザナミは地上に戻るまでの間、決して振り返らないことを条件に、イザナギについていくことにした…。しかし、イザナギは途中でふり返ってしまう。彼が見たものは、生前の美しさは面影もない腐りきった愛しい妻の姿であった。イザナギはそれを見て驚愕し、逃げ出してしまう。
裏切りに激怒したイザナミは、黄泉の醜女(しこめ)達に後を追わせた。イザナギは、髪を束ねた蔓(かずら)を取って醜女達に投げつけると、山葡萄が生えた。醜女達がその実を食べているすきに逃げたが、再び醜女達は追いかけてくる。次に右側の髪に付けていた櫛の歯を折って投げつけると、今度はタケノコが生えた。醜女達がタケノコを食べている隙にまた逃げた。しかし、イザナミはさらに八柱の雷神と千五百人もの黄泉の軍に後を追わせた。イザナギは十拳剣(とつかのつるぎ)で振り払いながら逃げた。
ようやく黄泉の国への入り口である黄泉比良坂(よもつひらさか)の坂本までたどり着いたとき、そこに生えていた桃の木になっていた実を三つ投げつけると黄泉の国の者達は退散していったが、ついにイザナミ自身が追いかけてきた。驚愕したイザナギは千人がかりでなければ動かないような大岩で入り口を塞いだ。イザナミは「お前の国の人間を一日千人殺してやる!」それに対しイザナギは、「それなら私は一日に千五百の産屋を建てよう!」と返した。以来、人は一日に千人が死に、千五百人が生まれてくるという…。”
このときの功績により桃は意富加牟豆美命(おおかむつみのみこと)という神名を賜りました。そして、イザナギから「私にしてくれたように、これからも困った人がいたら助けてやっておくれ」と命じられたのです。
子供の頃、この話を母に読みきかされた夜は怖くて眠ることができませんでした。桃を見るたび、思い出しては怖がっていたものです。そんなある日、母から「イザナギは、困った人がいたら助けてやっておくれと桃にお願いしたでしょう。だから桃には魔除けの力があるのよ。悪いことや病気を追い払ってくれるのよ…。」と言われ、その夜は安心して眠ることができました。
…いつしか大人になり毎年この季節を迎えると、桃の甘い香りとともに、幼い頃のあの記憶が懐かしく思い出されます。
桃のおいしい季節になりました。
桃は、魔除け・厄除けの力を持った果実だと伝えられています。旬の桃を食べながら、皆さんも遠い遠い神代の昔へ思いを馳せてみてください。
その他、日本神話には桃以外の植物も多数でてきます。でも、それはまたの機会にいたしましょう…。ところで…
黄泉路をふさいだ大岩を道反の大神(ちがえしのおおかみ)と言い、この世に残った黄泉路の半分が、島根県松江市東出雲町の伊賦夜坂(いぶやざか)とされています。黄泉への「道」は、現在行き止まりになってしまっているわけです。古来「道」とは、文化や物資を運んでくる重要な存在であると同時に、戦や疫病等の厄災も運んでくるものでもありました。故に集落の境や村の中心、 村内・外との境界や辻、三叉路などに厄災を侵入させないための守り神を祀ったのです。「道」そのものが「神」であったわけです。
目的地と目的地とを結んでこそ初めて「道」となるわけで、本来「道」とは、途中で止めたり塞いでしまってはいけないものなのです。
ひょっとして皆さんがお住いの近所に、「いつまでも開通しない道路」「突然行き止まりになる道」があったりしませんか…?
もし、そのような道があったとしたら…。…それはきっと「黄泉の国」への入り口なのです…。
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