2016.01.01

みかん色の電車

dsc01121-640x428.jpgお正月飾りの橙には「橙(だいだい)」が「代々(だいだい)」と同じ読みなので「代々家が絶えず繁盛するように」という願いが込められているという。玉飾りについている、鏡餅に乗っている、みかん(橙)を見て、この間の秋の日をふと思い出した。

dsc01260-640x428.jpgdsc01342-640x428.jpg東海道線が小田原を出ると、早川を経てやがて石橋山の古戦場あたり、相模湾を左手に、みかん畑を右手にその間を縫うように線路は一路西へと下ってゆく.... 。さすがは天下のメインライン。ひっきりなしに列車が西下東上してゆく。
10年程前までは、ここをみかん色の電車が行き交っていた。

湘南電車
近頃はあまり聞かなくなった。若人の中には、見たことも聞いたこともない人がきっといるに違いない。この電車が纏っていたオレンジ色濃緑色のツートンカラー。これがいわゆる湘南色と呼ばれていたカラーリングなのだが、みかん畑の傍を走り抜けるところから「ミカンの実と葉の色にちなむ。」というのはどうやら後づけらしい。66年前に登場した直後は、むしろ柿色といったほうが近かったらしく、口の悪い人からは「錆止めと同じ色」とまで言われたそうだ。その不評を受けてオレンジ色へ改めた。本来は、遠目にも目立つ警戒色としてオレンジ色、それに合う汚れの目立たない色として濃緑色が選ばた....らしいが、その由来はともかく、みかん畑の傍らを駆け抜けていく様は、まさにここを走るにふさわしい色であった。また、晴れた日には群青色の海によく映えた。

dsc01352-428x640.jpg時は流れ、やがて湘南色と入れ替わりにやってきたのは、ステンレスを身にまとい、全身を銀色にぎらつかせたやつらであった。湘南色をイメージした帯を捲いてはいるものの、風景を損なうこと甚だしい。昨今の大手鉄道各社の車輌といえば、(例外はあるが)顔と締める帯の色が違うだけで側面は皆ほぼ同じ。諸事情あろうがまったく嘆かわしい。

兵(つわもの)どもが夢の跡
老兵去るのみ
跡消すように失せにけり
かき消すように失せにけり

その役回りは決して派手ではなかったけれども、旅に、仕事場に、学校に、人々を運び続けたみかん色の電車はもう過去のものになってしまった。寂しいかぎりだ。
車窓に広がる海の青さに心躍らせたあの日も今は懐かしい。

佇む古戦場跡でそんなことをぼんやり考えていた。
よく晴れた初秋の日であった。

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※ちなみに、飾りに使うみかんは葉付きがよいそうな。