2016.11.01

染まる

kouyou
千早ぶる(ちはやぶる) 神代(かみよ)もきかず 竜田川 
からくれなゐに 水くくるとは      ー在原業平

染まる季節

「芸術の秋」「食欲の秋」などと言われる季節になりましたが、身近なところで感じられる秋はやはり紅葉ではないでしょうか。

冒頭の歌は在原業平が紅葉の美しさを詠んだものです。
意味としては…
神々が住み、不思議なことが当たり前にのように起こっていたいにしえの神代でさえも、こんな不思議で美しいことは起きなかったに違いない。
奈良の竜田川の流れが、舞い落ちた紅葉を乗せて、鮮やかな唐紅の絞り染めになっているなんて。といった内容です。
今から千年以上も昔から日本人は季節の美しさを感じる感性が豊かだったのですね。
日本人で良かったと思える季節です。

在原業平

在原業平(ありわらのなりひら。825~880)
平城天皇の皇子、阿保(あぼ)親王の息子。
※六歌仙の一人で、伊勢物語の主人公とされ、小野小町のように「伝説の美男で風流才子」だったようです。
先ほどの歌の中でも「擬人法」や「見立て」、「倒置法」といった技法が使われ、彼の機知に富んだ話しぶりが伺えます。
私も内面だけでも在原業平に倣って色男になりたいと思う今日この頃・・・。

※六歌仙・・・六歌仙(ろっかせん)とは、『古今和歌集』の序文に記された六人の代表的な歌人を指していった言葉。僧正遍昭、在原業平、文屋康秀、喜撰法師、小野小町、大友黒主の六人を指します。

竜田姫

竜田姫は秋をつかさどる神です。昔の人は目に見えない不思議な現象を神様の所業と考えていました。歌中の竜田川の源流にある竜田山(現在の奈良県生駒郡三郷町の西方)、秋になると緑から鮮やかな紅になる様子を女神が染めているのだと考えられていたようです。
そのことから竜田姫という言葉が生まれました。
こういう古事記とか日本神話の話は作り話だと頭で分かっていてもついつい読んでしまい、心が躍ります。
また、「竜田揚げ」も揚げた衣の色が紅葉した竜田山の色のようだから、と言われています。
ちなみに「竜田姫」は秋の季語になっています。

思いを馳せる

今日では紅葉のメカニズムも解明され、竜田姫は空想の人物になってしまいましたが、紅葉美しいこの季節に昔の時代に思いを馳せ、感傷してみるのもいいのではないでしょうか。
千年も昔から変わらない風景が今もあり、それを見れるということ。
陳腐な締めくくりとなりますが、このコラムを読んで竜田川に紅葉狩りに行くもよいですし、近所の木々の色付きを感じるのも風流ではないでしょうか。