2017.08.01

ヤマユリに想う。

ヤマユリは小田急線沿線を住処とする者にとって格別な思い入れのある花。それが神奈川県民であるならば、なおいっそう思い入れも深くなろうというものだ。県花がヤマユリというのも勿論ある。でも小田急線沿線というところに要があるのだ。

ヤマユリをシンボルマークとする列車が、丹沢の麓、相模の野を駆け抜けている。66年前の8月、当時の最新型特急車両の車側中央に金属(アルミニウム)製のヤマユリのエンブレムを取り付けたものが始まりとされる。県花をヤマユリとする神奈川の野を駆ける列車に相応しいとされたためと聞く。

dsc00266-1280x853.jpg現在、このエンブレムが存在する車両は一形式二編成に限られる。もっとも、正確には“エンブレムを模した”カッティングシートで、車内の自動ドアに貼られているため、お目にかかるには乗車するしかないのだが。

その二編成も来春の新型車両の導入に合わせて、38年間駆け続けた相模の山野を去ろうとしている。終に今一度、車側へ掲げてほしいと思うのだが、エンブレムが貼られていた箇所にはヤマユリではなく、きっと惜別のマークが貼られることになるのかな。

ヤマユリが見頃を終えようとしている。その甘い香りはひときわ印象的。山野の花でここまで強い芳香を放つ花も珍しい。香りもさる事ながら、豪華で華麗なその姿から「ユリの女王」と呼ばれる。花径は20cm以上でユリの中でも最大級。花の重みで全体が傾くほどだ。近所の方だろうか。雨風で折れることを心配するのか、毎年支柱を添えている。

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去るもの。
来たるもの。
願わくば、ヤマユリのエンブレムを掲げた列車が、甘い芳香漂う相模の山野をユリの女王のごとく、いつまでも走り続けてくれるように…。

ヤマユリは近畿から東北地方に広く分布しているが、本来自生地ではない九州、中国、四国、北陸、北海道にも自生している。これらは栽培品が野生化したものとだという。よく知られている例として、大分県竹田市のものは参勤交代の折、殿様が家臣に命じて箱根から持ち帰ったと伝えられている。北海道松前のものは開拓者が持ち込んだものとされている。また、石川県と富山県にまたがる石動山(いするぎやま)では、修験者が越後から持ち帰ったのが最初であると伝えられている。
球根は美味で、縄文時代の人々は既に食用としていたといわれる。ただし、今日食用に栽培されているものの多くは、コオニユリの栽培品種である。ところで、ユリの球根ならどれでも食用なのか…と言うと、実はそういう訳でもく、オニユリ、コオニユリ、ヤマユリ、カノコユリ以外の球根は食用には適さない。ほとんどは種はアクが強く、苦く、とても食べられたものではないのだそうだ。ただし、前述の品種でも園芸用として売られている球根は、腐敗病予防のために薬剤に浸してあり食用にするのは危険。食用として栽培・流通しているもの以外は口にしないように。ましてやユリ科とは言え、スズランやヒガンバナ(※)の球根は決して口にしないように。

※ただし、ヒガンバナの有毒成分は長時間水に晒せば、ほぼ無害にできるため、古くは飢饉の非常用食料として、近代では太平洋戦中・後の食糧難などに食用とされたこともある。現在でも石川県能登町では彼岸花から作ったヘソビ餅という物が存在するが、素人が調理することは大変危険。死に至る場合もある。